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鈍行列車に乗って秘湯を訪ねる
台東県・金崙温泉の旅

『な〜るほど・ザ・台湾』観光最新情報 掲載

昔ながらの列車に揺られての小さな旅。台湾東南部の台東から始めるミニトリップを紹介しよう。豊かな自然に囲まれた出湯とパイワン族の集落を訪ねる旅。時にはこんな旅も楽しんでみたい。

旅立ちは台東駅から

 台東から太平洋に沿って約30キロ。金崙という小さな町に温泉が湧いている。台東と枋寮を結ぶルートは南廻線と呼ばれ、台湾屈指の車窓を誇っている。日本人には正直なところ馴染みの薄い路線だが、一度でもここを旅してみれば、病みつきになること請け合いだ。台湾でも指折りのおすすめルートである。
 旅立ちは台東駅。台東の市街地からかなり離れており、少々不便なロケーション。しかし、ここには大都会では決して見られない澄み切った青空がある。ここから枋寮行きの列車に乗ろう。なお、道中に買い物ができる場所はないので、ミネラルウォーターをはじめ、食糧などは事前に購入しておきたい。
 列車に乗る前に台東ならではのものを一つ紹介しておきたい。それは構内放送だ。なんと台東駅では北京語、台湾語、客家語に続き、アミ語の放送が入るのだ。意味はわからなくとも、これはまさしく原住民族が多く暮らす台東県ならでは「声」だ。ぜひ耳を傾けてみよう。
 南廻線でぜひ体験したい列車は枋寮行きの鈍行列車。屏東や高雄へ向かうなら優等列車のほうが便利だが、鈍行列車には利便性に負けないだけの風情がある。青く塗られたボディに白いライン。どことなく貫禄があり、レトロな感じがするのも魅力的。今や少なくなった窓の開く車輌なのも嬉しいところ。新鮮な空気を全身に浴びて旅をしよう。

地名に隠された台湾の歴史

 金崙駅で列車を降りる。駅前は見事なまでに閑散としていて、商店はおろか民家すら見られない。集落は少し離れた街道沿いに開けているので、駅前の道を進んでいこう。街道との交差点付近には雑貨屋やコンビニがあってそれなりに便利。必要なものはここで揃えておきたい。
 温泉は駅から3キロほどのところにある。台湾東部ではよくあるケースだが、この温泉は日本統治時代に当地へ赴任した日本人警察官によって開かれた。簡素な浴場が整備され、これが戦後に受け継がれた。もちろん、警察官自身が源泉を掘り当てたわけではなく、整備も地元の人々によって行われたのだが、日本との関わりを伝えるエピソードだ。
 この一帯はパイワン族の集落が点在している。金崙も住民の大半がパイワン族だ。部族語ではこの地を「カナロン」と呼ぶ。一六世紀、恒春半島の南を経由してこの土地にやってきた漢人は、パイワン族の発音に従って「?仔崙(台湾語での読み方がカナロンとなる)」と漢字を当て、日本人も「金崙」と表記は改めたものの、発音は一貫して「カナロン」だった。
 しかし、戦後は状況が異なった。国民党政府の役人たちは、日本人が付けた「金崙」という表記をそのまま北京語読みにしたため、「チンルン」となってしまったのだ。為政者の都合で二転三転した地名だが、地元の人々は今も昔も変わらず、「カナロン」と呼んでいる。

温泉プールで楽しむ山間の秘湯

 丘の上に教会が見えてきたら、温泉までの道のりもわずかだ。周囲には民家が何軒かあるばかり。この集落の名にも注目してみよう。この土地は現地では「オンシン」と呼ばれている。言うまでもなく、日本語の「オンセン」に由来する地名だ(漢字表記も「温泉」)。パイワン族の人々は世代を問わず、日本語が通じることが多い。そして、流暢なだけでなく、発音が美しいことにも驚かされる。
 これはパイワン語の発音形態が他部族語に比べて複雑なことによるのだが、そんな彼らが唯一苦手とするのが「え」の発音で、「い」になってしまうことが多いのだ。そのため、「オンセン」が「オンシン」になってしまう。そのほか、日本語ができる世代の方々と話をする際にも、例えば、「蝉」が「しみ」に聞こえてしまったりもする。
 オンシンの集落から橋を渡ると、数軒の温泉施設が並んでいる。眼下には渓流が小さな渦を巻き、空には鳥の歌声がこだまする。温泉は河原にも湧き出ており、湯気がたっているのが見える。ここではぜひ温泉プールを楽しもう。湯は透明だが、ほのかに硫黄の香りが漂ってくる。耳に入ってくるのは、川のせせらぎばかりだ。
 昨今の旅行ブームを受けて、ここにもいくつかのスパリゾートができている。金崙に限らず、台湾東部では観光整備が急ピッチで進められている。しかし、開発と同時に、この土地ならではの風情が消えているのも事実。手つかずの自然が魅力的だった台湾東部だが、年々自動車の走行音とハイカーたちの笑い声が響くようになっている。訪れるなら、少しでも早いほうがいい。台北からはやや遠いが、台湾高鉄を利用して高雄側からアクセスすれば、その日のうちに到着できる。なお、温泉は宿泊も可能だ。

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