アミ族の伝説〜火の起源と「キョン」の背中
アミ族に伝わる伝承。
このエピソードはNNAの隔週連載「片倉佳史の台湾雑感」で掲載したものです。
太古、祖先たちは火の存在を知らなかったため、
不自由な生活を強いられていた。
そして、火の存在を知った後も、これを確保することができないため、
日夜、頭をひねっていたという。
これは台湾の東海岸、
花蓮と台東の中間あたりに位置するアミ族のキヴィという集落に伝わる昔話である。
かつて、人々は火ダネを探して常に山中を歩きまわっていた。
青年たちは思い思いに山へ分け入り、太陽が出ている間は働き、
夜を迎えたら火ダネを探す。そんな毎日が続いていたという。
ある日、山の頂で青年たちが露営をしていた時のことである。
海原の先に小さな光がちらちらと揺れていた。
よく見ると、はるか沖合いの小さな島の上に火影のようなものが見えている。
青年たちは小躍りして喜び、村へ帰っていった。
村人たちも皆、喜んだが、火ダネは遠い孤島にある。
これをどのようにして取ってくるか。
人間の力では不可能なので、動物たちに願いを託し、火ダネを取ってきてもらうことになった。
まずは強さと体力を誇る熊と豹が遣わされた。
しかしながら、海上の風波は強く、熊は溺死し、豹は波で引き返されてしまった。
動物界を代表する勇者はいずれも使命を全うする事ができなかった。
続いて犬や猫、そして、モグラやムササビまで、
あらゆる動物が挑んだが、どの動物も途中で力尽きてしまい、失敗に終わった。
最後の最後、ただ一匹だけ残った小さな動物がいた。
キョンである。日頃から臆病者と嗤われ、今回も初めから除外されていた。
しかし、キョンは今こそ名誉を挽回する機会だと思い、勇気を振り絞って名乗り出た。
人々は熊や豹ですらでないことをどうしてキョンにできるのかと嘲ったが、
今の状況としては他に遣わすべき動物がもはやいない。
そこで、キョンに期待をかけてみることにした。
キョンはこれまでの雪辱を晴らすべく、
波浪の中に飛び込んでいった。
そして、身軽なキョンは首尾よく火ダネを取って来ることができた。
人々は大いに喜び、キョンの背中を何度も何度も撫でたという。
そのときからである。
キョンの毛並みはすこぶる滑らかになり、光沢を生じるようになったのは。
(終わり)
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